タイラより発信中

映画と漫画と総務の知識。

九話 終焉(おわり)は銀色に包まれて。

 

エイジは妙子に追いついた。

妙子の横を下方へ滑空し続けている。

額に血管が浮かび上がる。

すぐそこに落ちていく妙子の気を失っている顔が見えた。

すぐさま抱え込み停止を試みるが止まりきれない。

地面がすぐそこに迫る。

鉄柱に何本も当たりぶち折りながら落下する。

止まれない!

地面すれすれでエイジは体を入れ替え自分が下になり地面へ激突した。

地響きがなり、

コンクリートがめり込み飛び散り鉄柱は歪み切れ草は全て舞い散った。

エイジに守られたとはいえ妙子にも相当な衝撃があったはずだが目を開けてみると無事な様子で寝息を立てていた。

エイジは妙子の周りに自分の銀髪をできるだけ集めて緩衝材としていた。

終わった。

さして強力でもない蟲相手でも相性や人間社会との絡みでこれだけ苦戦する。

その労力を体中に感じエイジはぐったりと仰向けに倒れたまま暫く

そのままでいたかったが牙雀が合体を解いてしまった。

ずしりと妙子の重みがエイジの生身の体にのしかかる。

エイジが牙雀を探して見廻すと牙雀は少し離れた草むらであくびをしている。

エイジは体を少し起こして牙雀に言った。

「次、裏切ったら殺すからな!

でも、助かったよ。サンキュー。」

牙雀はやれやれといった体で

「うるせえうるせえ。俺はもう寝るよ。」

と黒球のなかに消えて行った。

エイジは起き上がり妙子を背負って市街地につながる細道路を歩き出した。

気を失っている妙子がずり落ちてその度に背負い直す。

「ヘヴィだぜ。」

暗く、街灯も少ない草むらに囲まれたあぜ道を

明かりの方向に向かって歩いて行った。

虫の声がやけにはっきりと聞こえる。

 

夜が明けると、妙子は学校の保健室のベッドで目を覚ました。

制服のままである。窓の一部、鍵のそばが割られていた。

学校で女生徒を助けたところまでは覚えている。

その後の事も記憶にはあるがあまりに現実離れしていて夢なのか判断がつかない。

「あ!エイジ君は?!」

妙子は柱にかけてある時計を見ると8時20分。

もうすぐホームルームが始まる。登校しているなら教室にいるはずである。

妙子は飛び起きて駆け出した。

保健室を出ようとした所で

白衣を着た保険の女性教諭と出くわしてぶつかった。

「ごめんなさい!!」

と叫んで体を入れ替えて走った。

白衣を着た女性教諭は中にナイロンジャージといった変わった風体であった。

妙子が走り去るのをじっと見送っていた。

3階まで階段を一気に上がる。

息を切らせながら教室のドアを開けるとクラスのみんなが席についていて

一斉に妙子を見た。

担任の先生もすでに教壇に立ってホームルームの準備をしていた。

妙子は肩で息をしながら後ろの方のエイジの席を見た。

いない。

担任教諭は驚いて

「堤!!お前、昨日の夕方からどこへ行ってたんだ!!

みんな大騒ぎだったんだぞ!!ご両親も、、、」

と妙子に駆け寄ってきた。妙子はそれに答えず、逆に

「先生!エイジ君は?!」

担任教諭は狼狽しながら

「なに?犬養か?

わからん!来栖先生もだ!お前何か知ってるのか!?」

妙子は不安の様な悲しいような顔をして

「わ、かり、、ません。」

担任教諭は妙子の背中を押して廊下へ誘導し

「まあいい。まずはご両親に連絡だ。職員室へ行こう。」

と言った。

妙子はうつむきながらそれに従い担任の後ろをついて廊下を歩いた。

ふと廊下の窓から外を見ると人気ない校門の内側が見えた。

そのまま上に視線をやると早朝から空は夏日の様に青く

妙子の瞳には雲が白く浮かんでいた。

校舎への奥へ入っていった。

 

数日が経った。

エイジは拠点として蟲腹本営が斡旋してくれた

学校近くの寺の本堂にいた。

本堂の隅で荷物をまとめていると、登校用の鞄の中から妙子の本が出てきた。

「返せなかったな、、、。」

アタッシュケースとギターケースを抱え寺の住職に挨拶を済まし

そのまま駅の方向へ向かった。

牙雀が黒球の中から話しかけてくる。

「かかか!何も言わずに消えるか!相変わらず度胸がねえな!

昔からこういう機を狙って女を、、、。」

エイジが印を結びながら何か唱えている。牙雀はあわてて

「わわわ!戯言だ!冗談の通じねえ奴だな。全く!…?おい。」

通りは駅に通じる街道で、

大きくはないが商店も立ち並び人通りはある。

エイジも神妙な顔をしている。

「ああ。つけられてるな。」

その中で何名かがエイジの周囲を離れない。

エイジは急に小道を右折しスピードを上げて走り出した。

路地や商店の裏を駆け抜けるが姿こそ見えなくてもついてきている。

走りながら同じ速度で迫ってくる気配を数える。

「1、2、3、、、10人か。」

そのまま逃げ続け市街地を抜け農道を走り抜け周囲には人気がなくなり

戦争の後、放置された資材置き場の跡地に入り込んだ。

「出てこい!」

エイジが叫ぶと追手はそれぞれ物陰から姿を現しエイジを取り囲む。

全員ガタイのいい男で、

普段着やスーツを着ているが中身はそんなものではないだろう。

顔は無表情でエイジを観察していた。

牙雀が言った。

「こいつら普通の人間じゃねえな。」