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予知能力者(プレコグ)よ、鎮魂歌を歌え。

この物語は2048年の近未来戦争後と言う設定を舞台としている。

その世界にも歌や踊りと言った芸能界があり「飛崎ミユ」というトップアイドルが活躍していた。

これから始めるのは、その「飛崎ミユ」が世に出る少し前の物語である。

 

 

その男が人を選ぶときは「神が教えてくれる」と言った。

 

「神が教えてくれる」と言うのは人を見るとその背後にその者の未来が見えるのである。

男はアイドル歌手のプロデュースを行っている。

人材を見極める、そういう勘の鋭いものはいるが男の能力はそれとは別物で、

予知能力である。

その能力を持って多くの人気アイドルを発掘、育成する。

男は大手プロダクションで30歳という若さで部長の職位についていた。

芸能業界でも権力をふるえ、収入もある。成功者といって差し支えないだろう。

しかし、成功した今でも新人アイドルの面接オーディションは必ず自分で行った。

能力で新人を見極めるためもあるが男はこの仕事が自分の人生の使命と考えていたからである。

こだわりが、ある。

 

男は名を 才賀 叶(さいが かのう)という。

 

時に2047年

飛崎ミユがデビューし、ブレイクする一年前。

第二次極東紛争は2年前に収束したが多くの爪痕をこの国に残した。

才賀は新東京市の東部地区から事務所のある西部地区へ帰る途中だった。

ラメの入ったようなシルバーのスーツを翻し曇り1つない革靴で靴音を立てながら歩いた。

季節は夏だが上着とベストは脱がない。

髪は七三に分け、整髪料で後ろに上げてある。

細身で背が高いので、さも上品に、気取っているふうにすら見える。

チャーターしておいたホバーカータクシーに乗り込むと

「やってくれ。」

と一言だけ言って、その切れ長の目を外に向けた。

タクシーは東地区の復興ままならない荒廃した風景を車窓に移しながら東地区を走り抜けた。

崩れた家屋、バラック、荒れたアスファルト、ところどころで開かれる小規模な闇市

多くの死んだ者、傷病者の治癒や生活、食糧難や物資不足

その中で絶望しながらも懸命に生きる人々。

第一次極東紛争時にロボット兵器や、サイボーグ兵士、サイキック兵士が開発されてからは

戦闘は歯止がきかず、激化の一途をたどっていた。

人が人の垣根を超えて、人間の存在自体があやふやになり

命や魂と言ったものに機械や化学のメスが入ることによってその尊厳や神秘性が薄くなっている。

ロボット兵器の残骸と人の死体が同じように捨てられている。

戦争で死んだ者たちの命ですら軽かったのではないかと言う錯覚。

暗黙のままそれは社会にも当然伝わり、人々は自らの尊厳の危うさを素肌に感じながら生活していた。

 

才賀は今、彼等をこそ元気づけなくてはと考えていた。

 

タクシーの中で才賀はライフ・コードを取り出してラジオを聞き出す。 耳に貼り付けてある極小薄型イヤホンから今一番売れているアイドルの曲が流れだす。 途端に貧乏ゆすりを始め、イラつきが収まらない。 才賀のプロデュースではないのである。 それでも爪を噛みながら拷問のように才賀は聞き続ける。 能力によって売れる人材は見いだせるがトップになれる人間が自分の元に現れるかとは別問題である。 はたまたプロデュース能力の問題なのか。

元気づけるような楽曲を多く歌わせているがどうしても結果がでない。 才賀はまたその答えを見つけるために東部地区へ来たのである。 たとえトップを奪えなくとも、人々必要としている物を届けなければならない。 能力を持ちながらそれが出来ないというのは神、運命に対しての怠慢でしかないと彼は考えていた。 この予知能力を別の事に使ってもそれでも成功できるであろう。

しかし、彼は幼少の頃この能力に気づいたときに考えた。

なぜ、自分だけがこのような能力を神から授かったのか。

定め、としか結論は出せなかった。ならばこの能力を神の意志に従って生かそう。

予知能力と、また神が授けたであろう彼の嗜好や実務能力で可能な線を探し、現在の職となった。

予知能力という万能に見える特殊能力があっても搭載されているのは人間である。

必定、その人間なりの人生となる。

彼が作り出しているのはアイドル歌手ではあるが、神への讃美歌

また世界の人々を勇気づける歌い手を作り出しているととらえていた。

 

タクシーは西部地区に入る。 才賀の事務所は西部地区有数の繁華街にある西部地区は戦災の被害も少なく、

もともと商業地区であったため、現在でも商業ビルの群れや飲食店や商店が集中し繁栄していた。

その上仕事を求めた戦災地からの難民も流入し始め、混とんとした街ができつつある。

ビルの上の立体ホログラムで作られた商業看板には前衛的なデザイナーが創作したであろう

芸者をデフォルメしたような女性が微笑んで消費者金融の広告をしている。

風俗店や歓楽街のギラギラとした看板も目立つようになってきた。

以前はなかったものである。

様々な飲食店が高級店から屋台まで軒を連ねている。

高級店にはリムジンタクシーが横付けされ、屋台では日雇い労働者がうどんなのかヌードルをかき込んでいる。

国道はホバーカーで渋滞しクラクションが鳴り響く。人々の中には軍服もちらほらと散見し

情勢の不安定さを感じさせる。

 

さて、面接である。

才賀はすでに最後の一人を残し面接を終え、目ぼしい人材もいた。

望むほどではないが傷ついた社会を元気づける、それができる未来が数名の後ろに見えた。

才賀は安堵のため息をつき、最後の一人を呼び入れた。

「飛崎ミユさん、お入りください。」

会議室のドアがおずおずと開く。

ドアの向こうから顔半分だけ出して中を確認してから、

慌てたように少女が入ってきた。

小柄な体格で、ショートカットの右上に髪をゴムで結んでいた。

クリクリとした目はかわいらしかったが全体的に暗い、地味な印象である。

真っ黒な地味なYシャツにしわが寄っているのか妙な感じになっている。

七分丈のパンツはつぎはぎだらけで、靴は履き古したようなスニーカーであった。

ちょこんと才賀の前に立つと自己紹介をした。

「ととっ飛崎ミユ!16番!よろしくおな、お願いします!」

オーディションの面接と言っても大袈裟な物でない。

事前の書類審査の後、高得点順に面接していく。

部屋は事務所の一室の10畳程度の簡単な会議室で行われるし、

面接官は普通の長机に才賀一人である。

才賀は落胆した。最低点の応募者だし仕方ないとも思った。

ミユの後ろには、平凡な未来しか見えなかった。

大きなため息をつき、形式的な質問で終わらそうと考えた。

ミユは才賀のその態度によけい緊張を強めて固まった。

才賀は手元にあるシャープペンシルをくるくる回しながら質問した。

「なんで、アイドルになろうと思った?」

ミユは飛び上がるようにして返事をする。

「はひっ!!わた、私には未来が見えたのであります!ちっ小さい頃から!アイドルだと思ってました!

 よろしくお願いします!」

深々と頭を下げた。

才賀は面倒くさそうに

「よろしくお願いしますはもういいから。」

そういいながらイラつきを隠せなくなってきていた。

事もあろうに自分に向かって未来が見えるとは。爪を噛み始めた。

「課題のダンスを踊って。」

ミユはまた飛び上がるように返事をした。

「はひっ!かしこまりました!」

踊り始める。踊り、と言うよりは体操であった。

顔だけは真剣なその姿に閉口して才賀は次の質問に移った。

「課題曲。」

ミユは飛び上がった。

「はひっ!かしこまりました!ジャストぉ~フォーリングゥ~ラブゥ~」

胸の前で手を合わせて必死に歌いだす。課題曲はポップスのはずだったが民謡にしか聞こえない。

才賀はもはや横を向きながら

「もういいよ。君ね、練習とかしてきた?みんな真面目に夢を追って努力してるんだよ?

私たちだって使命をもってやってるんだ。失礼だと思わない?

服だってそんなみっともないモン着て人前によく出るね。」

と言いい、じろっとミユを見た。

ミユは落ち込みながら

「もも申し訳ありうません。練習は、たくさんしたんですが、どうしても早いのとか苦手で…」

才賀はあきれたが最後の質問を一応聞くことにした。

「じゃあ、どんなアイドルになりたいの?」

ミユは飛び上がらなかった。少し黙った後うつむき加減に話し出した。

「こ、この前の戦争は悲しすぎました。私は、今みんなは元気なんてとても出せないと思います。

だから、みんなを癒せるような、死んでしまった人も、がんばって生きている人も、

癒せるような歌を歌うアイドルになります。」

才賀は眼を見開いて急に立ち上がった。椅子が倒れて大きな音が鳴る。

探していた答が思わぬところから出てきた。

ミユをまじまじと見た。

よく見るとYシャツのしわだと思っていたのは刺繍であった。

手製で、どれだけの時間をかけたのか。

パンツのつぎはぎもアップリケになっていて、少女なりの楽しみを乗せたものであるのがわかる。

靴も古くはあるがきれいに洗ってある。

才賀は頭から水をかけられたような気分になった。

自分の恵まれた境遇に慢心して、能力におぼれて人を見ていなかった。

今は戦後なのだ。この少女は苦しい現況のなかで精いっぱいの事をしてきていたのだ。

椅子を戻し、座り直しながら質問をもう一つした。

「なにか、得意な好きな曲を歌ってください。」

ミユは童謡の「シャボン玉」を歌った。

芸術表現にはその人間の人生が否応なく出る。それは技術ではない。

歌声に才賀は自分でも気づかずに泣いていた。

「君、いや飛崎さん。うちの事務所に入りなさい。」

しかしミユはかぶりをふった。

「い、いえっ!こ今回の面接で自分の力不足がわかりました!い、いちいち一から!

 やり直してきます!」

と深々と頭を下げて走り出ていってしまった。

その後、飛崎ミユは別の事務所からデビューし絶大な人気を得ることとなる。

そしてこう語っていた。

「わ、私が今こうしていられるのは、とあるオーデションで厳しいご指摘をいただいて奮起できたからです!」

 

運命、という大きな力がある。

才賀の予知の間違いすらもこの未来を引き起こすための運命であったのか、

はたまた人が言うように「運命は切り開くもの」であったのか。

それは誰も知らない。