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七話 契約は歪(いびつ)な香り

風は吹き荒れて風切音をあげてつむじを切って天空へ舞い上げられていく。

鉄塔の頂上には白衣の男

2人の少女

大ムカデの化け物

そのすぐ下にはギターケースを背負った金髪の学生服

戦いが、始まる。

来栖はエイジの眼光を見て覚悟の程を感じ取った。

「ちっ、これだがら理屈が通じない奴らは…。

まあ、せっかくの内臓を無駄にもしたくない。下がっていなさい。」

と女生徒に命じると女生徒は妙子を抱え、鉄柱を歩いて後方へ向かった。

エイジは来栖とムカデを見据えながら眼の端でそれを確認していた。

エイジ、来栖両名とも沈黙する。

その時突風が吹く。

女生徒と妙子がぐらついた。60mの鉄塔の上である。

エイジは思わずそちらを見てしまった。

次の瞬間、百飢は触手を直線的にエイジに差し込んできた。

エイジは

「牙雀出ろ!!」

と叫ぶ。

しかし黒球は反応しない。

「牙雀っ!?」

エイジの反応は遅れ触手をかわしきれない。

触手がエイジの体にズプリと刺さった。

「…!!」

エイジは眼を見開いて衝撃に耐える。

叫び声をあげたりはしない。

体を捻って致命傷は避けたが左わき腹を刺された。

血が学ランを伝って滴っていく。

百飢は触手を引き上げまた頭上で2本をしゅるしゅると遊ばせている。

来栖はそれと同調するように

「ははは!当たった当たった!」

と上機嫌になる。

すると黒球から光の糸が出始めて束になり牙雀が出現した。

「ゲラゲラゲラゲラ!!いいザマだなエイジ!

さすがのお前も生身じゃ蟲にゃ適わねーよバカ!!」

エイジの横から嬉しそうにエイジの顔を覗き込む。

「いい顔色じゃねえか。その怪我じゃろくに動けまい。

助けて欲しいか?

さっきはよくも投げつけてくれやがったよな!

助けて下さいって言ってみろよガキ!」

エイジは牙雀を睨みつける。

左腹がズキズキと痛み、出血のせいで頭もくらくらしている。

来栖はそれを見て

「ははは!仲間割れかい!いやだね低能は!

不良と犬っころじゃそんなもんか!」

と笑った。

牙雀はそれを聞きとがめ

「ああん?なんて言ったテメエ。お人形遊びが大好きな坊ちゃんがよ!」

来栖はこれには頭に来たようで顔を真っ赤にしながら

「ななななんだと!私の研究を人形あそ、、、くそ!

百飢!あの犬をやってしまえ!」

と百飢を見ると先ほどから動きが止まっている。

来栖が

「どうした?」

と尋ねると百飢は答えた

「まずい、来栖、あいつ正九位だ。前は縛り付けられていて見えなかった。

あれは九位の紋章。我ら蟲ども108匹。

強さも能力もそれぞれだが正十位以上は別格だ。

「十禁蟲」と言う。

蟲腹たちが代々受け継いできた中で初期から生き残り続ける化け物だ。

勝てん。逃げよう。」

と後ずさりする。

来栖は激高する。

「何を怖気づいているんだ!私は魂をやるんだぞ?!ちゃんと働け!」

百飢は頭でっかちな奴に取り付いた自分を呪ったが、

それならば蟲腹を狙うしかないと考えた。

エイジを見ると闇の中ギターを構えていた。

ギターの音が鳴り響く。

ケースを下へ投げ捨ててギターを鋭角に立てて演奏し歌い出したのだ。

来栖は理解に苦しみ

「行き詰って狂ったか?まあいい。やれ。」

と指を指して百飢を促した。

エイジは歌い続ける。歌詞は洋楽なのかよく聞き取れない。

その内エイジの足元の鉄柱がほんわり光り、

そこから梵字の羅列が流れ出してきた。

異変に気付いた牙雀はエイジの歌う歌の歌詞に耳をすました。

眼を見開いて背中に悪寒が走るのを感じた。

エイジが歌う歌詞はロック調で聞き取りずらい。

「……天にまします天帝へ恐み恐み諸々の禍事罪穢を祓い賜え清め賜えと申す事の由を八百万の神等共に聞食せと申す陰影の理天地の理よりて三戸の蟲を使役し我ら今天帝へ奉り」

牙雀は焦って冷や汗をかき始める。

「た、帝釈天へ奉る詞だっっ!!

やべエ!!ヤロウ本気だ!!

楽器で詞の威力を増幅してやがる!ムカデも俺も両方やる気か!」

エイジの足元から浮かび上がった梵字の列は

渦の様にエイジを取り巻こうと上に上がっていく。

ギターもぼんやりと光出す。

このギターも女の髪を溶かした合金で弦を張り

胴体部分も樹齢100年を越える霊木を切り出して作ったものである。

百飢は事態を理解はしていないが危機を感じた。

「とにかく蟲腹を仕留めれば何とかなるっ。」

と触手をエイジに飛ばした。

それを見た牙雀は

「ばかっ!!」

っと叫んで触手に咬みついて止めた。

百飢の方に向き直り叫ぶ。

「こいつが詞っているのは

自分の魂と共に俺たち蟲を帝釈天の元へ送り返しやがる自爆の術だ!!

発動中に下手な事をすれば暴発してもう止められなくなるぞ!

帝釈天の元になンて送り返されたら霊体に戻されて二度と復活できん!」

エイジの詞は続く。

梵字は光りエイジの体を取り囲んで回転し加速していく。

頭の上で梵字が集まり光りの球ができ始めてどんどん大きくなっていく

牙雀は焦った

「うあア!あれが爆発したら終わりだ!!」

牙雀はエイジの元に駆け寄り

「わかった!協力するぞ!契約者よ!だからやめろ!!やめてくれ!!」

エイジは梵字の列ごしに牙雀を見据え

「ノーフューチャー、、、」

と言って術を解いた。梵字が四方に飛び散っていく。

牙雀は胸をなでおろして溜息をついた。

エイジは怪我と術の発動でフラフラだったが

気力でまっすぐに立ち牙雀に言った。

「まったく、クールじゃねえな。」

エイジは来栖の方に向き直る

「センセイ、ちょっと力を得たからって自分を見失うなよ。

ダセぇぜ。あんたは蟲なんて使えていない。

取り付かれて狂わされているだけだ。」

学ランが風にたなびき、左腕をビシッと横に払い来栖を強く睨み、

言った。

「本当の蟲の使い方ってのを、見せてやるよ。」