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四話 男たるものの戦い×3(三乗)

油断であった。エイジ達はギョッとした。

この様子でこのタイミングでここにいる。

少女の姿をしているが少女の訳はない。

少女はふらりと揺れるとそのまま横に倒れ込んだ。

相当の重量があるようで機械的な音がなる。

開いたままの虚ろな機械的な眼、少女は器だけの空っぽだった。

アンドロイドの機体の様だ。

この時代のアンドロイドは高水準で

高水準な物になるとスパイや兵士にも活用されている。

外見は人間そのもので自律行動でプログラムすれば感情や心こそないが、

人間そのままに活動する事が可能であった。

補足であるが、戦後、アンドロイドは実生活での使用も禁止されている。

サイキックの取り締まりと同様の理由である。

しばらくの沈黙が続く。

エイジが様子を見ようと少女に近づくと

少女の眼だけがギョロリとエイジを睨んだ。

その瞬間、少女の体から幽体離脱のように光の糸の束が

勢いよく浮かび上がってきた。

光の糸の束は少女の体から出終わると

少女の上で絡み合い実体化し見上げるほど大きな双頭のムカデになった。

こちらを静かにじっと凝視していた。

眼はふたつの頭にいくつもまばらについて

それぞれがキョロリキョロリと生々しく不気味に様子を伺う。

鼻先から1mはあろう触手が2本にゅるにゅるとうごめいている。

それぞれの体の節は瓦の様な鎧で出来ていて角に近い棘が規則的に生えている。

体のそこらじゅうにフジツボの様な物が大量にできている。

動くと古い機械が動くように軋む音が響いた。

胴体部分の下の方に牙雀と同様の文様があり、

その中には「二四」と記されている。

妖気を発していた主である。

牙雀はムカデを見て渋い表情をしながら言った。

「人形に取り付いて妖気も隠して生徒の中に潜んでいたのかよ。

人形の外に出た時には妖気が漏れる、気配が出たり消えたりするわけだ。

蟲腹はいるのか?単体か?」

ムカデはエイジと目があった瞬間

片方の頭がうねりを打って猛スピードで突進してきた。

「避けられない!」

エイジはそう判断すると捕縛していた牙雀を思い切ってムカデに投げつけた。

「貴様ああアああ!!ぶっ殺してやる!!」

牙雀は叫んでムカデと激突し物凄い衝突音と共に突進してきた頭を吹き飛ばした。

ひとつ頭を失ったムカデは激高している様子で

エイジ達から少し離れた場所でぐるぐると回りもがいて興奮している。

そしてエイジを睨んで言った。

「こ、ここは俺の縄張りだ、、、。で、出ていけ!」

エイジはムカデとにらみ合い印を結ぼうとすると、

ムカデは形勢が悪いと判断したのか素早く少女の身体に入り込むと

制服をひるがえして校舎の向こうへ飛び降りていった。

「始末するぞ!牙雀!」

とエイジは叫んだが

牙雀はそのまま何も言わずに光の糸になって黒球の中へ戻っていった。

エイジは逃げたムカデの方向を振り返りながら

「兄貴の蟲じゃなかった、、、。」

と言った。

「ファッ〇!!」

エイジは地面を蹴って屋上を後にした。

その後エイジは教室には戻らず、学校内や周辺を探し回った。

エイジは考えた。

おそらく近隣の奇妙な殺人も奴の仕業だろう。

奴の狙いはなんだ?なぜ奇妙な殺し方をするのか。

蟲があの人形を用意できるはずはない

後ろにいるのはそう言った素養のある者のはずである。

 

放課後に差し掛かり校舎裏を通りかかった時に後ろから声をかけられた。

科学の担当教諭、来栖であった。

「君が、犬飼君か。今日転校してきたっていう。

みてくれもそうだけど、凄まじいな。初日から授業全サボりって。

どういうつもりな…」

と言いかけた時である。

エイジの眼には見えた。

エイジと向かい合う来栖の後方

空間が、校舎裏のフェンス横の植え込みあたり2m程度の風景が歪んでいる。

植え込みの葉や枝をはっきり見ようとしても虫眼鏡で遠くを見た時のように

ぼやけて見えない。

蟲が姿を消している時にこの様に見える。

通常の人間には察知できない程度であろう。

蟲腹として赤い眼をつけたエイジは気づいた。

その歪みがエイジに突進してきた。

エイジは来栖を突き飛ばして助け自らは両腕を前に固めて防御の姿勢を取った。

突進をくらい、エイジは数メートル跳ね飛ばされて地面に突っ伏した。

口の中にジャリが入り衝撃で体がジンジンとぼやけた感じがする。

麻痺しているのか痛みはまだ襲ってこない。

ジロリと周囲を見回してペッとジャリを吐き出し

「ファッ○!」

とつぶやくと片膝をついて立ち上がろうとする。

それを見ると歪みは再度エイジに突進してきた。

今度は途中で上空に跳ね上がり上から飛びかかろうとする。

何とかエイジが横っ跳びにかわすとそのまま校舎の壁に突っ込んだ。

衝撃と共にコンクリートは砕けて飛び散り、

そこから地鳴りが始まり校舎が崩れ始めた。

地震の時の様な崩落が起こり校舎の壁面部分が

轟音と共に丸ごと崩れ落ちた。

エイジは後ずさって崩落をかわしフェンスに背をついた。

上を見上げて降ってくる大小のコンクリート片を腕で払う。

土煙が上がり砂が雨の様にざらざらと降ってきた。

鼻から吸い込んだ息は喉に刺さりむせ込んだ。

土煙がはれて来てエイジは校舎の崩落を見て愕然とした。

壁面の一部分のみが崩落したので規模はそれほど大きくなかったが

崩れてがらんどうの様に1、2階の教室がむき出しになっていた。

一室は図書室だったようで下に瓦礫と本がちらばっている。

火災は起きていないようだ。

怪我をして横たわったり座り込んだりしている生徒達がいた。

下敷きになっている者もいるかもしれない。

エイジは助けに向かおうとするが歪みの気配が消えていない為に動けない。

どこからか狙っている。

人が叫ぶ声が近寄ってくる。

遠巻きに生徒が集まって来ていて騒ぎになりつつあった。

人の気配を嫌がったのか歪みは消えた。

警察、消防隊と救急車が何台も到着し怪我人を救助し始める。

瓦礫の中に生徒がいないかレスキュー隊が探索に入る。

後から分かった事だが、重軽傷者が5名、死者1名程出た。

エイジは罪の意識と責任感と恐怖で動けなかった。

「自分のせいで。」

しかし唇を噛んで校舎に近づき

座り込んだり横になっている怪我人達の救助を手伝おうとした。

その中に、堤妙子がいた。

瓦礫の横にぺたんと座り込んでいる。

上の階にいたせいで打撲程度で済んでいるようだったが、呆然としていた。

エイジはハッと思い出し

「図書委員…」

救急車に乗せようと横から近づいて肩を貸して立ち上がらせる。

すると妙子はエイジに気づいたようで

「あぁエイジ君、大丈夫だったんだね。よかった。

図書室に向かってたら急に…」

と言ってうっすら笑った。

エイジはそれを見ると抑えきれないものが胸の奥から込み上げてきた。

「ソーリー。すまない。」

とだけ言ってうつむいて救急隊員に妙子を引き渡した。

足元に「アンネの日記」が落ちているのを見つけた。

エイジが拾い上げて渡そうとするが

救急車に乗り込んでしまい渡せなかった。

 本は砂埃で汚れてしまっていた。エイジは本を握り締めた。

「フ〇ック、、、。」

生徒達は下校した。

エイジは警察に危険だからと止められても最後まで救助を手伝った。

エイジは汗と泥とでぐしゃぐしゃになりながら天を仰いだ。

そしてその晩も、猟奇殺人は起こった。