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一話 ロックの奏(かなで)

その男は凶運のもとに生まれた。
どうあがいても逃れられぬ定めというものがある。
特殊な風習と能力のある土地の長の家に次男として生まれ
兄と共に物心がつく前から苛烈な訓練を施された。
閉鎖された生活は強力な力と歪曲した性格とを彼に与える。
大きな力や存在には、
奇異で過酷な運命が黒くこびり付くように付きまとうものである。
3年前に終わった第二次極東紛争の戦後の騒乱はまだ続いているが
第一次極東紛争によって生み出されたロボット兵器や、サイボーグども、サイキック兵士どもの戦いはこの時代の戦争と人間を大きく変えた。
とりわけ人間のサイキック能力の発見が戦力への流用が可能とわかると
まがい物とされてきた地方土着の呪術なども、研究され、にわかに戦闘へ駆り出されていく。
彼の一族も例外でなく戦争の渦へ飲み込まれていった。
さて、この物語はそのあとの後日譚として始まる。

2048年7月のある日
朝から真夏日アスファルトからは陽炎が上がっている。
ゆらゆらと不快な湿気と熱気を表現し、
いつの時代も変わらない人の情念を具現化するように揺れる。
ここ、第一新東京市東部も被害は甚大で、
3年経った今でもところどころに立て直しの叶わない家や
バラックの集落が乱立している。
道を歩くたびにアスファルトに散らばった砂利が鳴った。
政府の手は人々の生活まで届かず街の機能は人々の自活にゆだねられ、
闇市や自営業者の活動によってほぼ全ての町の消費活動は成り立っている。
食糧事情も戦時中よりははるかに良くはなったが十分とは言えず人々の心にも乾いた風が吹いていた。
それでも復興は進み、希望を感じさせる物を見ることもできる。
街を歩くとさわやかな白いYシャツを着た夏服の学生を見かける。
近くの公立第一新東京市立東高等学校である。
教育インフラも復活してきた。
木々が生い茂るひび割れた校門の前、登校する生徒たちの中に
異形の男子生徒が通り過ぎる生徒たちを尻目に立ち尽くしていた。
彼はこの暑さの中で汗ひとつかかなかった。
彼の周りだけ青白い冷気がチロチロと取り囲んでいるようだった。
背は170cm程度であろうか。細身の身体は何かスポーツをやっているもの特有の力強さに似た雰囲気を感じさせた。
パンクロッカーのようにベリーショートの金髪はとげとげしく白金に光り逆立つ。
肌の色は血管が浮き出る程白く青く瞳は茶色ががり
日の光に当たり赤色を宿していた。
左耳にはピアスが二つ勇気と誇りを示し、
鬱積した彼の精神の反逆が噴出した現れであった。
夏なのに学ランを着て前のボタンは全部開け、学ランの下には派手なTシャツがのぞいて見える。背中にはギターケースを背負っている。
腰にはジャラジャラとチェーンのアクセサリーがたなびき、その中の一つにはテニスボールほどの黒い球体がゆれる。
球体には禍々しい文様が描かれ、文様に取り囲まれた中央には漢数字で
「九」
と、記されていた。
分厚く黒いラバーソウルの白いエナメルがピカピカと光るブーツで大地を踏みしめ、背筋を伸ばし、ポケットに両手を突っ込んで校舎を睨む。
彼はギターケースから素早くギターと取り出した。
体を弓なりにのけぞらせながらかき鳴らし、
ロックバンドの様にポーズを決めてつぶやく。
「牙雀(がじゃく)、ヤツは校内にいるか?」
どこからか彼の頭の中に声が聞こえる。
「うるせえな。
いイか、エイジ。俺はてめえのオトモダチじゃねえんだよ。」
エイジは表情も変えずつぶやく。
「OH!フ〇ック!い・る・の・か?と聞いている。」
頭の中の声、牙雀は答える。
「ちっ。いけすかねえガキだ。
いるよ。その蟲の縄張りに入った。気づかれてると思え。」
エイジがニヤリと片方の口の端を上げて笑うと、自嘲的ながらも不遜な顔になる。
何故か血を連想させる。
「ロックだな。」
そう呟いて校舎の中へ入っていく。
その時、牙雀は蟲ではないもう一つの違和感の存在に気づいていた。
しかしエイジに伝えることはしなかった。
彼に言わせれば「そコまでの義理はねエよ。」との事である。
 
この高校は地元に根付いた創立30周年にもなる高校で
親子2代で通うものも珍しくなかった。
校舎は崩壊を免れたものの、
老朽化と戦火でところどころ崩れたり煤で黒くなっていた。
校舎二階の角部屋にあたる2年C組の教室では生徒たちが朝の挨拶代わりにはしゃいでいた。校庭に面しているので朝日が差し込んでいる。
予鈴のチャイムが聞こえる。
窓からは校庭に植樹されている桜の枝が青々と茂っているのが覗ける。
幹の桜の木特有のごつごつした表皮と流れ出るドロドロとした樹液が
生命力とそのグロテスクさを感じさせる。
2年C組の教室ではホームルームの最中で生徒たちは皆席に着いて
教壇に立つ担任教師の方を向いている。
その横にエイジがガムをクチャクチャと噛みながら立つ。
ポケットに手を突っ込んでキョロキョロ周りを物色したり
最前列の生徒にガンをくれたりする。
頭が禿げてバーコードになっている小太りな男性担任教師は
汗をかいて何か諦めた表情をしている。
「えー、今日から転校してきた犬養映二君です。」
と担任教師が黒板に犬養映二と漢字で書くとエイジは割入って上から乱暴にそれを黒板消しで消して自らチョークで「イヌカイ エイジ」と
書きなぐったカタカナで書きなおした。
エイジはまたギターをかき鳴らし
「ヨロシク!」
と舌を出しながら中指を立ててあいさつした。
生徒たちはエイジのいかれた雰囲気にに戸惑いを隠せなかった。
ひそひそと話し合い浮足立った。
その中でひときわ絶望に駆られる少女がいた。